MS&ADインターリスク総研の挑戦:ウェルビーイング経営で社会的課題と成長を両立
- 株式会社 Flora
- 2月7日
- 読了時間: 16分

MS&ADインターリスク総研株式会社は、リスクマネジメントコンサルティングのリーディングカンパニーとして、企業や社会が直面する多様な課題に対し、先進的に取り組んでいます。本インタビューでは、同社が掲げる「ウェルビーイング経営」の取り組みについて、その背景や具体的な活動、そして目指す未来像を深掘りします!
会社プロフィール
社名:MS&ADインターリスク総研株式会社
業種:リスクマネジメントコンサルティング業
従業員数:410名(2024年4月時点)
エリア:国内外
ご担当者様情報
リスクコンサルティング本部 企画室 兼 総合管理部人事グループ 部長 森本 真弘 様
ご導入頂いたサービス
女性向けヘルスケアアプリ “Wellflow”
男性社員向けウェビナー「女性の健康課題を理解し、サポートするための基礎知識」
男性社員向けウェビナー「女性のホルモンバランスによる不調における職場での女性社員とのコミュニケーションについて」

ウェルビーイング経営が未来を変える:取り組みの理由と目指す姿
御社がウェルビーイング経営に取り組んでいる理由や目指している姿は何でしょうか?
ウェルビーイング経営に取り組んでいる理由は、社員のウェルビーイングによって生まれてくる活力が企業価値向上の源泉になると信じているからです。ここでの企業価値は、売り上げや利益などの財務指標に現れるものだけを指しているわけではありません。「Society 5.0」の重要な要素として、「社会的課題の解決と経済的発展を両立させること」が挙げられています。これが新しい社会に求められる姿であり、その社会を支える企業もまた、同様の活動を求められています。
弊社、そしてMS&ADグループとしても、社会的課題の解決と、自社(グループ)の持続的成長を両立させることが求められます。この両立というのは、同じ一つの事業が、社会的課題の解決と自社の成長の両方に寄与する状態を指します。
グループの保険事業やリスクマネジメント事業は、もともと社会的課題の解決に貢献する機能を有しており、事業内容をより高度化・ブラッシュアップして社会的課題への貢献を強めることで企業価値を高め、利益も生む構図になっています。弊社のパーパスとしてもそのことを掲げています。
御社では、この両立をどのように実現しようとしていますか?
この両立は、Society5.0が求める姿としても掲げられていますが、伊藤レポート3.0では、「これからの稼ぎ方の本流」として、“サステナビリティトランスフォーメーション”と表現され、「従来の活動の延長線上にはない非連続的な変革を果敢に進める」ことが必要と記されています。
つまり、新しいイノベーションを生み出さなければ、社会的課題の解決を図りながら、持続的に成長していく状態はつくりづらいと考えて活動しています。
イノベーションを推進するために、御社で特に重視していることは何ですか?
弊社では、イノベーション、ひいてはパーパスの実現に向けて大切にしたい重要な3つの価値観をコアバリューとして掲げています。それは、「常に弛まない自己研鑽をする」、「課題解決意欲を支える、健康でいきいきとした職場環境」、「多様性を認め合い、お互いを尊重する」というものです。
この三つの価値観を社員が共有し、大切にすることで、イノベーションが生まれやすい土壌が形成されると考えています。この土壌を形成する上でも、ウェルビーイングは欠かせない重要な要素だと思っています。

WHOが提唱する「健康の三要素」とウェルビーイングの実践例
ウェルビーイングに関して、具体的にはどのような施策を実施していますか?
WHOが提唱する「健康」は、“身体的健康”、“精神的健康”、“社会的健康”の3つで構成され、その3つすべてが満たされた状態が必要とされています。しかし、健康経営に取り組む多くの企業では、身体的健康や精神的健康に着目する一方で、社会的健康への意識がやや希薄でした。
我々は、社会的健康にも重きを置いて活動を進めています。社会的健康を高める要素とウェルビーイングを高める要素は重なる部分が大きいと考えています。ウェルビーイングについて、ファーストステップではわかりやすさを優先して、一旦“幸せ”と捉え、慶應義塾大学の前野隆司教授が提唱する幸せの4因子(やってみよう因子、ありがとう因子、なんとかなる因子、ありのまま因子)を意識しています。
一例として、社員の「個性・自分らしさ(ありのままに因子)」を意識した上で、社員同士の「つながり(ありがとう因子)」を意識した取り組みを複数実施しています。
リモートワークやフリーアドレスで、互いを認識、接点を持つ機会が希薄になってきたことも踏まえ、イントラネット上に自己紹介サイトを立ち上げました。このサイトでは、顔写真や業務内容に加え、趣味などのプライベートな情報を共有できるようにしています。
また、定期的に「マイフェイバリット(my favorite)ランチ会」を開催し、社員が自分の趣味や興味(=my favorite)を短時間でプレゼンする機会を設けています。忙しいにもかかわらず、プレゼン資料をガッツリ作り込んでくるなど、プレゼンする側もイキイキ、見ている側も楽しい、ユニークな取り組みになっており、社員間のつながりを取り戻し、仕事のしやすさを向上させる効果もあります。
ウェルビーイング関する取り組みの中で特に注力していることはありますか?
特に注力しているのは、施策の効果測定と社員の声を反映する仕組みの構築です。施策の実施後にはアンケートを実施し、先に挙げた「健康の3要素」「幸せの4因子」や「コアバリュー」、別途掲げている「クレド(行動指針)」のどの要素と今回の施策に強いつながり・好影響を感じたかを、必ず確認することにしています。
アンケートの結果は、施策の改善や次回以降の企画に反映されるだけでなく、社員に「ウェルビーイング委員会が目指している方向性や重視しているポイント」を伝える手段としても活用しています。
測定と反映の仕組みを効果的に持続させるために、ウェルビーイング委員会を設置し、各部から選出された委員が毎月集まり、新しい施策等について議論しています。
人材版伊藤レポートで著名な伊藤邦雄先生と日本経済新聞社がタッグを組んで作成された「伊藤版ウェルビーイングスコア」の計測も全社員を対象に実施しています。社長も出席するウェルビーイング委員会で結果のフィードバックを受けていますが、絶対値でも他社比でも低評価となった項目を取り上げ、外部講師を招いたファイナンシャルウェルビーイングセミナーを実施したこともあります。このセミナーきっかけに、刺激を受けた社員が自ら講師として名乗りをあげ、その社員を中心に、現在では月例で勉強会が行われています。この取り組みは、社員自身が主体的に動き、社員間のつながりを生み、ウェルビーイングの向上と学びの文化形成にも寄与する好事例にもなっています。

社員の絆を深めるためのユニークな取り組みとウェルビーイング委員会
ウェルビーイング委員会の活動について教えてください。
委員会では、委員自身が“やりたい”“楽しい”と感じる施策の実現を重視しています。まずは委員自身にウェルビーイングを実感してもらうことが重要ですし、自ら発案・企画・実施することでやりがいや達成感が高まり、やらされ感をなくし、本業の合間を縫って準備する負担感が少しでも軽減されることを期待しています。
ウェルビーイング委員会の構成についても工夫がなされています。委員会メンバーは各部門から1年任期で選出されますが、全員が1年で交代してしまうと、培われた雰囲気やマインド、施策の連続性が損なわれてしまうので、本人の意向を確認した上で、継続メンバーが一定割合残るように調整を図り、意欲的なメンバーを見つけた場合には、個別スカウトも行っています。また、今年度からは「各部門1名」の枠は外し、意欲的なメンバーがいれば定員枠を意識せずに受け入れる柔軟な体制を採っており、できるだけ活動が活性化するようにしています。委員会活動が正式な業務の一環であることも明確にしています。
若手社員の意見を取り入れるための仕組みはありますか?
委員を務めた若手社員から、1年を総括する会議の席上で次のようなコメントを頂戴したことがあります。
「自らが主体的に考え、企画したことを、自らの手で実現させていく、非常にやりがいのある・有意義な経験をさせてもらえた」
こうした経験が委員自身のウェルビーイングを高める効果も生んでいると改めて実感し、委員から出された意見を積極的に採用し、反対意見やネガティブ意見はできるだけ抑え、アイデアを形にするプロセスで、サポートできること、追加できる工夫の提供を重視しています。このような仕組みが社員の自発性と創造性を引き出し、意外性も加わって、会社全体の活性化に寄与する小さな一歩になればよいと思っています。
ウェルビーイング委員会の最終的な目標は何でしょうか?
最終的な目標は、ウェルビーイングが企業文化として根付くことです。文化として根付けば、社内のあちこちから自発的な取り組みが自然と生まれ、委員会が企画しなくても、もっと言えば委員会がなくなっても、ウェルビーイング活動が常に回り続けている状態になると思っています。ですので、委員会がなくなることが最終目標と言えるかもしれません。そのときには、会社全体の競争力や持続可能性が大きく高まっていると思います。

経営陣が先導するウェルビーイング戦略とスコアの活用
社内のウェルビーイング活動において、経営陣の役割はどのように位置づけられていますか?
ウェルビーイング委員会の委員長を社長自身が務め、「CWO(Chief Well-being Officer)」の役職を担っていることが、その重要性を象徴しています。経営トップが直接このテーマにコミットすることで、社員に対するメッセージが明確になります。年度ごとの重点取組施策の筆頭にもWell-beingが掲げられています。また、社長自らがウェルビーイング活動に参加することで、会社全体としての一体感が醸成されます。インタラクティブな対話を重視する活動も実施されており、これらが相まって活動を成功させる大きな原動力となっています。
御社がウェルビーイング経営を推進する上で、参考にしている指標はありますか?
さきほど、ウェルビーイングに関する取り組みの中でも取り上げた「日経統合ウェルビーイングスコア(伊藤版ウェルビーイングスコア)」もそうですが、年に3回程度実施している、エンゲージメントサーベイがあります。エンゲージメント、インクルージョン、ウェルビーイングといったKPI指標を構成する設問とこれらに影響を及ぼすドライバー項目と位置付けた設問の結果を踏まえて、会社・各部門の状態を把握しています。経営連絡会でも全社の結果が開示・共有され、結果を踏まえた対話や改善に向けた取り組みも始まっています。ウェルビーイング活動の中で浸透を図っているコアバリューや前述した“つながり”の演出によるコミュニケーション活性化との相関を図るなど、複雑に絡み合いながら相互に影響を及ぼしている要素を意識し、解きほぐしながら取り組みを進めています。
ウェルビーイング活動・施策を実施する際、どのような効果を狙ったものであるかを社員にも示し、前述のとおり、実施後のアンケートで社員の実感も聞くようにしています。弊社のWebサイトでは、以下のような一覧も公開しています。

女性の健康課題に向き合う企業の取り組みと男性社員教育の実例
女性の健康に関する取り組みについて、特に男性社員向けの教育が注目されていますが、その具体的な内容を教えてください。
敢えて男性社員限定の場を設けて、女性特有の健康課題への理解を深める研修を行っています。たとえば、生理やPMSに関する知識を共有する研修を実施しました。男性社員限定としたのは、まだ男性・女性が同じ場で、お互いの存在を気にせず、生理やPMSに関する悩みや疑問を共有できる風土にはなっていないと感じているためです。異性がいない場の方が、男性陣がストレートに意見や疑問をぶつけられ、実になる研修にすることができると考えました。
まずは職場でのウェルビーイングを意識して実施した研修でしたが、家庭内でのコミュニケーション改善にも役立つ内容になったと評価していますし、実際にそのような声ももらっています。
こうした研修は、男性社員だけでなく女性社員にも影響を与えていますか?
そうですね。男性社員がこのような研修を受けることで、女性のホルモンバランスから生じる不調に対して理解や配慮が深まっています。ただし、理解するだけでなく、具体的な行動に移すとなるとまだまだ戸惑いもあり、継続的に続けていく必要があると感じています。
一方、男性社員からは、自分達がこうした研修を受けているという事実を女性社員にもきちんと伝えて欲しいとの声も挙がっています。こうしたことが共有され、男性から女性への一方向だけではない、双方向の理解・配慮が進んでいくことで職場全体の雰囲気が改善されていくと感じますし、それを目指しています。
「女性の健康課題」という属性を限定した課題に関する取り組みを始めた思ったきっかけは何でしたか?
以前、産婦人科医のお話しを聞く機会があり、そこで自身が生理やPMS、更年期障害といった女性が日々直面している課題に対していかに無知であったかを実感したことです。自分は仕事柄、聞く(知る)機会に恵まれたが、そうではない多くの男性社員は同様の機会もなく、乏しい知識や勝手な思い込みで対処してしまっているのではないか、正しい知識に基づいた理解がなければ、ダイバーシティもインクルージョンも進みようがないではないかと思ったことがきっかけです。
そこで、ただアプリを導入して女性を支援するだけでなく、男性社員に対して研修・セミナーを実施し知識をつけてもらうことが非常に重要だと思い、取り組みを始めました。
実際に参加者からは「このような話をはじめて聞いた、非常によかった」との声をいただいています。

ユーザー視点で進化するソリューション:フローラとの協力事例
フローラを選んでいただいた理由について教えてください。
「フローラさん、良いかも」と思ったのは、いきなりソリューションを提案するのではなく、まずサーベイを行い「御社や女性社員の現状はこうなっていますよね」と現状を見える化してから次の展開につなげていくというアプローチが非常に良かったからです。
今は多くのフェムテック事業者が当たり前に行っていることですが、当時はまだきちんとできている事業者は少なかったと思います。
加えて、特に感銘を受けたのは、初期のソリューションが完全に姿を変えるほどスピーディにアグレッシブにカスタマイズされていった点です。マーケットや女性たちに受け入れられないと感じた場合には潔く方向転換を行い、ユーザーの声を反映してどんどん進化させていく。いわゆるアジャイル型の開発・進化ですね。その機動力とスピード感が非常に素晴らしいと感じました。この点は、他の事業者もまだ追い付いていない点ではないでしょうか。
ユーザーの声を真摯に受け止め、柔軟に対応していく姿勢が、フローラさんを選び続ける大きな理由になっています。
直近実施した男性社員向けのウェビナーの反応はどうでしたか?
参加者向けのアンケートでは、有意義との評価が四分の三以上を占めていて、高い評価を得ています。
今回のセミナーで特に伝えたかったキーワードは、直接的な表現を避けること、そして女性社員が話しやすい雰囲気を作ることでした。そのためには男性の同僚や上司もまずは自身のことを話すのが良い、というお話しががあり、アンケートでもその点が印象に残ったとの声が多く見られました。狙い通りに刺さったと感じています。
一方で、「悩ましい点を挙げてください」という質問をしたところ、「何でもセクハラになるように感じるが、どう対処すればいいのか」という現実的な悩みが寄せられました。中には「ここまで気にしなければいけない管理職は大丈夫なのか」とご自身の上司を心配する声まで挙がりました。あまりナーバスに受け止めると、何もできない萎縮状態に陥る危険があるため、少し恐怖心を与えすぎたかもしれないと反省しています。こうした課題もケーススタディを重ねることで改善していく必要があると考えています。
また、先ほどの繰り返しになりますが、「一方的ではいけない」という意見もありました。男性側の理解だけではなく、その理解をもとに行動し、女性からの反応を受けて再び改善を図ることが必要です。女性側も一方的に要求するだけではなく、男性側が配慮を示した場合には歩み寄る、建設的に意見を伝える姿勢が求められるでしょう。双方が働きやすい環境を作るために、お互いに理解、配慮し合うことが理想であり、目指すべき方向です。
そのためには、今回の研修内容を女性社員にも広く伝えるべきだという意見も出ました。これは非常に貴重な意見であり、今後の活動計画を立てる際の参考になると考えています。
今回のウェビナーでは男性社員にしかURLを送らず、女性社員が間違って参加して心理的安全性が損なわれないようにしました。ただ、それにより、女性社員は男性社員がどのような内容の研修を受けているのか全くわからない状況になってしまいました。そのため、研修内容を女性社員にも共有し、「男性社員は講師からこのようなことを学ばされています」という情報を伝えるべきだと思います。
当日の都合で参加できなかった男性社員向けに、録画動画を用意し、こちらも男性社員しかアクセスできないように加工して社内公開していますが、動画内容を編集、質疑応答部分を割愛し、講師パートのみの動画を準備した上で、女性社員もアクセスできるようにしようと考えています。
また、今回の内容をほぼそのまま、同じ講師で女性社員向けに実施するのも一つの案だと思っています。女性社員も同様の研修を受けてもらい、一旦は男性社員の対応に対する不満でもよいので、フラットに質疑応答ができれば、より有意義な場にできると思っています。

ウェルビーイング委員会が不要になる日:文化として自然発生する取り組みを目指して
最後に、御社がウェルビーイング経営を通じて今後達成したいことを教えてください。
まず、女性の健康についてですが、現在は男性社員が女性社員に配慮や理解を示す際、どうしても発言や行動を躊躇してしまう(結果、控えてしまう)状況があります。たとえば、「こんな質問をしたらどう思われるだろう」とか「余計なことを言ったと思われたくない」といった心理的なシャットダウンが起きているわけです。
これを解消するためには、男性社員が研修を受け、配慮を示す行動や発言がどういう意図で行われているのかを女性社員も理解し、相互に理解を深める必要があります。ただし、最初からすべてが心地よい形で進むわけではなく、女性社員からすると「行き過ぎた発言」と感じることもあれば、お互いに意図せぬ誤解が生じることもあると思います。
これらの試行錯誤しながら、男女が同席して自由に意見を言い合い、質問や議論を通じて共に解決策を考える場をつくりたいと考えています。この取り組みは、女性のウェルビーイングだけでなく、職場全体のウェルビーイングにもつながるものです。実現には時間がかかるかもしれませんが、徐々に文化として根付かせ、最終的には自然に会話や議論が行われる状態を目指しています。
ウェルビーイング全体に関しては、現在は各部から選出されたメンバーが集まり、ウェルビーイング委員会として施策を企画・運営しています。しかし、理想としては、社内のあちこちから自発的な取り組みが自然と生まれ、委員会が企画しなくても、もっと言えば委員会がなくなったとして、ウェルビーイング活動が常に回り続けている状態になればよいと思っています。
すでに一部では、委員会とは別にサークル活動や各組織内での自主的な取り組みが生まれてきており、こうした動きがさらにあちこちから発生してくることを期待しています。また、各組織が独自に始めた取り組みを他の組織が参考にし合うような循環が生まれることが理想です。
最終的には、誰かが指示しなくても、ウェルビーイングにつながる活動があちこちで生まれ、お互いに刺激し合いながら自然に広がる状態が目標です。個人的には「ウェルビーイング委員会が不要になる日」がその成果だと考えています。

インタビューは以上になります。ありがとうございました!